「泣き虫毛虫」![]() 「泣き虫毛虫」 え~ん、え~ん。 春のあるあたたかい日。 幼稚園に通い始めたばかりの 声のするほうへおそるおそる近づいてみると、おおきな桜の木の下に優くんの親指ぐらいの大きさの毛虫がぶら下がって泣いています。 どうしたの? 優くんは、やさしく声をかけました。 でも毛虫は答えません。ちいさな声で泣いてばかりです。 優くんはしばらくそれを見ていました。見たこともない虫だからです。優くんはそれを、とてもかわいい虫だと思いました。 ぼくのなまえは優。きみはだあれ? すると毛虫はようやく、葉っぱの中からくしゃくしゃの顔を上げて答えました。 わたしは毛虫。泣き虫毛虫。なまえなんてないわ。 こんなこと聞いてくれたの、あなたがはじめてよ。だって・・・ 毛虫はまた泣きそうになりました。 だってね、みんなわたしのこと、きらいだって言うの。 なんにも悪いことなんかしてないのに。 ただブランコをしてあそんでいるだけなのに。 そしてまた泣き出してしまいました。 優くんは考えました。そして言いました。 ぼくがきみになまえをつけてあげるよ。 今きみがぶらさがってる、この木はさくらの木って言うんだって。だから、きみは今日からさくらだ。 すると毛虫はぴったりと泣きやみました。そして、全身ふさふさの毛をゆらして喜びました。 さくら。わたしのなまえはさくら。ありがとう、優くん。 優くんはさくらを見ながら目を細めました。 そうしてその日から、優くんとさくらはなかよしになりました。 毎日、幼稚園の帰りにはいっしょにブランコをして遊びました。 ぷーら、ぷーら。いつもこの木の下に来れば会えるのです。 でもそんなある日、優くんがママに連れられて公園にやってきた時、さくらはいませんでした。どこにも・・・ 優くんは必死にさがしました。 どうせ、かくれんぼでもしてるんでしょ? でもやっぱりさくらはいませんでした。 優くんははじめておおきな声で泣きました。 え~ん、え~ん。 さくらはどこに行ったのでしょう? ちょうちょが一羽、優くんの肩にとまりました。 ここだよ。優くん。わたし、ちょうちょになったの。 泣いちゃだめだよ。もう一緒にブランコはできないけど、今度はわたしが優くんのおうちに遊びに行ってあげる。 桜色の羽がぱたぱたとうれしそうに動きました。 この羽があれば、どこにだって行けるのよ。 いろんなところに飛んでいって、きれいな菜の花ばたけや、甘い蜜のおはなしを、いっぱい優くんにしてあげるわ。 優くんは目をまんまるにして聞いていました。 さくらは蝶になったのです。 それはそれは、たのしい毎日でした。チューリップの花には赤や白や黄色があることを、優くんは教えてもらいました。 雨がよく降る季節になり、ピンク色の花は消え、みどり色の葉っぱだけがのこりました。 そして、いつしかさくらはいなくなりました。 優くん、たのしかったよ。また来年、あの公園で会おうね・・・ ジャンル別一覧
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